A:寓話の海獣 ウンクテヒ
モラビー湾岸地域に、古くから伝わる伝承がある。
それは、海から人喰いの怪物「ウンクテヒ」が、上陸してくるというものだ。長らくこの伝承は、子どもを叱るための寓話と思われてきた。しかし、近年になって、怪物の目撃情報が多発……。周辺住民から、不安の声が上がっているそうだ。
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
ヒューランの黒渦団のモブハント副担当官は手配書を目の前に置いて言った。
「俺はモラビー湾の村出身でな。こいつにゃすげぇ興味があるんだよ」
役人とは思えない口の利き方で話すとカウンターに肘をついてあたし達の顔を覗き込んだ。
まぁ、元々海賊なのだから仕方ないと言えば仕方ない。というのもリムサロミンサでは国家の長である提督を選出するのに海賊同士の勝負で決める。これはリムサ・ロミンサが腕っぷしの強さや勇敢さで社会的な信用や地位が決まるという価値観を持つルガディン族が興した都市国家だという事に由来する。その海賊同士の勝負に勝った海賊の船長が提督になり、乗組員がみな正規兵や役人になるのだ。
「うんく‥て‥ひ?」
見慣れない文字列なのでスムーズに読めず、首を傾げた。
「そ。ウンクテヒ」
前のめりになった男は髭面をした少年のようなキラキラした顔で復唱した。
「コイツはな、モラビー沿岸部では知らねぇ奴ぁいねぇ程有名な昔話の蛇神様だからな。そいつがホントに存在したなんて、なんか不思議な気がしねぇか?」
その昔話を知らないあたし達はさっぱり不思議ではない。それを口に出しそうになったが視界の端に相方が険しい表情で小さく首を振るのが見えたのでやめた。
「どんな昔話なの?」
代わりに相方がカウンターにもたれるように肘をついて副担当官の男に聞いた。
「内容としちゃアレだ‥‥ほら、口は災いの元っつうか、ん~」
要領を得ない話に自然とあたしの眉間に皺が寄る。皺が増えそうな気がして慌てて右手で眉間をさすって皺を伸ばした。
「陰口はいけないという内容の寓話だよ」
副担当官の後から男の声がした。
「これは!!」
カウンターに肘をついてもたれかかっていた副担当官が慌てて気を付けの姿勢で黒渦団特有の敬礼をした。奥から歩いてきたのは手足が長く、細身の軍服が良く似合っている若い男性だった。歳の頃はあたし達と変わらないように見える。
「民家の壁や窓や屋根裏にいるヤモリはウンクテヒの下僕で陰口を叩く者がいないか見張ってるのさ。陰口を叩くとヤモリはそれをウンクテヒに報告して、それを聞いたウンクテヒは海から陸に上がりその者を喰らってしまうという話さ」
少し鼻につく気障っぽさで言った。
「ウンクテヒはなんでそんな性格の悪そうな奴を食べちゃうんだろ?お腹壊しそうよね」
相方がそういうと気障男は相方に顔を寄せて少し小さな声で言った。
「性格の悪い卑怯者を駆逐して世の中をよくするためさ。自己紹介が遅れたね、私はここを取り仕切る本部長をやっている…」
あたしは相方に色目を使う馬鹿男に最後まで言わせず、カウンターから手配書を乱暴に掻っ攫い、相方の腕を取ると思いっきりアッカンベーをして部屋から出た。
相方があたしのムッとした顔を覗き込みながらニヤニヤしているのに気付いて、膨れながらプイッと反対側に顔を向けた。